独 白



きっかけは、何だっただろう。





 最初は、なんて人相の悪い男なんだ、という程度の認識だった。
 はっきり言って、そこらの極道《ヤクザ》よりよほど極道らしいと思ったくらいだ。

 相手が警察《ポリス》とわかっていたのにパトカーに乗り込んだのは、あの男が『死に方』を教えてくれると言ったから。

 今考えても、正気ではない。
 まあ、あの時は本気で死ぬ気だったから正気でなかったのは間違いないが。

 それなのに、あの男ときたらそんな私を前にして真面目に手を出してきたのよ!
 『腹上死なんてどうだ?』って……!!

 14歳の死を覚悟した女子学生の服の中にいきなり手を入れてくる警察《ポリス》なんて、どうかしてるわ。
 おかげで、あいつの魔手から逃れるために、思わずもりもりとエネルギー補給しちゃって死ぬ気なんて失せてしまったのよ。

 とんだ不覚を取ってしまったものだわ。

 ――いいえ。
 これは言い訳ね。

 死ぬ気が失せた本当の理由は……

 生きていなければ知ることのできない「くすぐったさ」を、不覚にも知ってしまったから。

 なによりも、あんな男に、今まで誰にも気づかれることのなかった私の心の内を暴かれてしまったから。

 ――オマエハ何ノタメニ生キテキタ

 ――オマエノ存在ハ無意味

 ――オマエノ存在ハ足枷

 竜二が私のせいで撃たれて以来、私を苛ませ続けた声。
 どんなに耳を塞いでも、脳裏に直接響く、私自身の存在を否定する言葉。

 もう、生きる意味なんてないと思った。
 死んで責任を取るしかないと思った。

「死んでみせてやるくらいの芸当ならなぁ、サルにだって真似できんだよ」

 そう言った、あの男の眼が忘れられない。
 もちろん、この私をサル同然と言ったことには今でも腹が立つ。

 でも、確かに私は納得してしまった。
 死んで償おうとする奴は、本気で償う気のない奴だ、という意見に。

 だって、私は忘れたかった。

 竜二を一度死なせてしまった罪悪感から逃げたかった。
 どこへ行っても私を責め続ける怨嗟の言葉から耳を背けたかった。
 誰からも見放された孤独から解放されたかった。

 しょせん、自己満足だったのだ。

 死ぬ気が失せた理由も、結局は自分が救われたから。

 最後まで自分のため。

 それでも、今はこれで良かったのだと思える。

 だって、私が笑うと喜んでくれる人たちがいる。
 私に、生きていて欲しいと思っていてくれる人たちがいる。

 何よりも、私が一緒に生きたいと思える人がいる。

 こんなこと、あの鬼畜スケベ男には絶対に言わないけれど。

 でも、心の中ではいつも感謝してる。

 あのとき、別れる前に言った「ありがとう」には、私の思いのすべてが詰まっていたことに、あいつは気づいているのだろうか。

 気づいて欲しい、けど気づかせたくない。

 こんないろんな気持ちをくれるのは、あいつだけ。

 きっかけなんて、もう何だったか思い出せない。

 けど、あんなヤツにこんなに魅かれることになるなんて、はっきり言って悔しい。

 だから、もう、嫌だと言っても別れてなんかやらない。

「あんたが死んだら、私も死ぬから」

 冗談なんかじゃないわよ?
 あんまり余裕ばかり見せてると、そのうち痛い目見るんだから。

 覚悟してなさい。
 あんたこそ、私なしじゃ生きていけなくしてあげる。

 逆境に強いのよ、極道の女は。

 あんたが何て言おうと、大人しく守られてなんかやらない。
 私が、あんたを守る。

 今度こそ、後悔しないように――。





はい、朝来さんの告白でした(笑)
朝来さん×宗像氏のカップリング、好きなんですよね。
普段は素直じゃないけど、強気で根性もある朝来さんには、ぜひとも宗像氏を虜にしてほしいですw



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