掌編A
宗像という男は自宅で服を着ることが非常に少ない。
少なくとも、朝来はそう思っている。
(ほら、今も)
朝来の視線の先には、腰にバスタオルを巻いただけのほんのり湯気を立てる男の姿。
シャワー後のこの姿にほんの少し前までは抗議をしたものだが、本人がまったく気にしない上に服を着る意義さえもわかっていないようであるのでもう諦めた。
最初のうちは思わず目を逸らしたものだが、こうも毎日見ているとさすがの朝来も耐性がついてくる。慣れとは恐ろしいものである。
そして、そんな光景にも慣れてくると今度は興味が湧いて来たのである。
本人を前にして言うのはなんだか悔しいので口にしないが、宗像の身体は非常に鑑賞のしがいがあった。
厚みのある胸板に長い手足。人並み外れて立派な体躯をしているのに、鈍重さを欠片も感じさせない足運び。 首からも白いタオルをかけて飲み物片手にキッチンをうろついているというのに、その姿はなぜか隙を感じさせなかった。
銃を持てば朝来すら凌ぐ腕をもつその指先は実はとてもきれいなラインを描いているとか。
見事としか言いようのない割れた腹筋とか。
余計な肉はどこかへ置き去りにして朝来くらいなら重さも感じさせずに抱え上げてしまう逞しい腕とか。
(うーーん。悔しいけど、いい身体してるわ)
なんていうことを遠目で観察しながら思ったりするわけである。
(でも、なんと言っても一番は......)
その時、宗像はちょうどリビングにいた朝来に背を向ける形で立っていた。
その背中の筋肉が、腕や肩、首の動きに合わせて鳴動するように動いているのがわかる。
ボディビルダーのような不自然な筋肉ではない、しかし体幹まで鍛え抜かれた筋肉の動きを見るのはちょっとした楽しみである。
眼福といって差し支えない。
黙ったままじっと見つめていると、不意に男が振り向いた。
ぱちりと視線が交錯する。
「なんだ?」
見られていることには気付いていたのだろう。何か用かとわずかに首を傾げる姿が少し可愛く見える自分は相当参っていると自覚している。
気を抜くとへにゃりと笑いそうになるのを押さえて、なんとか微笑といえる笑顔で答えた。
「水、こっちに座って飲めば?」
「ああ、そうだな」
そして隣に座った男の身体を見るだけでは飽き足らなくなった朝来がその惚れぼれするような筋肉に手を伸ばすが――。
「…………」
「どうした? 不満そうな顔して」
当然のように伸びてきた手を掴まれてあっという間にひざの上に抱きあげられた。
そうなのだ。実は朝来だって宗像のことを触りたいのだが、この男が朝来を前にして何もしないわけがなく。
決して抱き上げられたり触られたりすることが嫌なわけではないのだが。
こちらのことを触らせずに、自分だけが相手の身体に触れてその感触を楽しむためにはどうしたらいいのか。
近頃毎晩そんな(事実上不可能なことを)考えていることは、当分の間秘密である。
実は筋肉フェチ疑惑の朝来さん(笑)
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