無謀な誘拐


≪オマケ≫



「黒耀会が壊滅!?」
 黒耀会といえば、二日前にいきなり九竜組に喧嘩を売ってきたという命知らずな関西の組のひとつではなかったか。
 それがどうして二日後の今日には壊滅しているのか、突然の展開に渋谷は目を剥いた。
「ああ。正確には二日前に関東支部はすでに壊滅状態だったらしい。その勢いで関西本部も昨日の内に一斉検挙だな。内部情報によると、警察が匿名の通報で駆けつけたときには組員は簀巻き状態、銃や麻薬や誘拐した女子供がわんさか出てくるという状態だったらしい」

  竜二はパソコンの画面を見ながら淡々と言った。
 どこか呆れたような、疲れたような表情を見せているのは気のせいだろうか。
 話を聞いている渋谷も思わず頭を振って呟いた。
「……さすが、司坊。トラブルメーカーの実力で右に出るものはいませんね……」
 渋谷は呆れるのを通り越して感心している。
「まったく、それのせいであいつについてまわる妙な伝説染みた噂がすでに化け物染みたものに格上げされてるってのに」
 二人の男たちが、呑気な顔をした噂の「闘神」を思い浮かべて同時にため息を吐いた時。

「竜二、ブンさん、おはよう!」
 清々しい笑顔と共に、問題の人物が意気揚々と竜二のオフィスに入ってきた。
「なんだ、司坊。今日はいやに機嫌がいいんだな」
「ブンさんこそ、そんなシケた顔してちゃダメじゃないか!」
「……で、どうしたんだ? 何か用があるんじゃないのか?」
「そうそう、竜二!」
 聞かれて司はなぜか得意げな笑みを浮かべて、隠し持っていたらしい包みを差し出し高らかに言い放った。
「誕生日おめでとう!!」

「「…………」」

 二人分の沈黙が降りた。
 竜二は自らも忘れていた誕生日を祝ってもらえたことに対する驚きのそれであったが、渋谷の沈黙は「し、しまったぁ〜〜今日は三代目の誕生日だった!!」という己の不明を後悔するものであった。
 そんな二人の心境などおかまいなしに、司は固まる竜二を下から覗き込むようにしてその名を呼んだ。
「竜二?」
 反応がないのを不審がった司は次の瞬間固まった。

「…………――っ!///」
 竜二から、まさにとろけるような微笑を向けられた司は耳まで赤い。
 竜二はひょいっと司の腕をつかみ、こめかみにちゅっと口付ける。
 カァーっと赤くなる司をそのまま抱きしめ耳元で甘く囁いた。
「このプレゼントもうれしいが、俺としては、リボンひとつでも全然かまわなかったんだがな」
 微かな笑いを含んだその言葉の意味をはかりかね、抱きしめられたまま司は鸚鵡返しに問いかけた。
「リボン……? そんなもんどうすんだよ」
 まさか竜二が使うとも思えないので素直に聞いたのだが、竜二は意地の悪い笑みを浮かべてのたまった。
「お前が自分の首につけて、俺の寝室にでも来てくれればいいじゃねーか」
「んなっ!///」
 馬鹿ヤロー!と叫ぼうとした口は竜二のそれに塞がれた。
 司がマズイと思ったときにはすでに上着がはぎ取られ、身体は床に縫い付けられている。
 さっきまでいたはずの渋谷もすでに退出してしまっていた。
(ブ、ブンさんの薄情もーーーん!)
 司の叫びもどこ吹く風。実にウキウキとそして見事としか言いようのない手捌きで司を剥いていく竜二。


 九竜組の朝は、今日も平和であった。



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