あの日の誓い




 耳をつんざく銃声が立て続けに響いた。
 いくつもの銃弾が、たった一人を狙って空気を切り裂く。
 その軌道上に、いつの間にか標的以外の少年が立ちはだかった。
 そして今度は連続した金属音が響く。
 一瞬のことだった。
 弾は少年のバッグウァームにすべて弾かれ、標的に着弾することなく床に転がされた。
「なっ……!!」
 銃を撃った男たちの内の一人が驚愕の声を上げたが、続く言葉は疾風のごとく距離を詰めた少年により封じられる。
 すぐさま狙いを少年に変えた別の男が銃を構えるがその時には少年の姿はすでに視界に無い。
「遅い」
 ぎょっとするほど近くで囁かれた声は意外なほど清涼で、男とも女とも判断がつきにくい。
 しかし男はその声に反応する暇も与えられずに昏倒させられた。
 同様に、他の男たちも一人ずつ倒される。
 最後の一人を絞め落とした少年――否、男装の司は軽く息をついてバッグウァームを腰の部分に収納した。


 その直後、意地とも執念ともつかない根性で気絶から覚醒した男が一人いた。
 彼はかすむ視界で思うように動かない腕を何とか持ち上げ、自分に背を向けて立つ少年に向かって発砲しようと試みた。
 その動きにいち早く気づいたのは男たちが標的としていた人物だった。
「司!!」
 声はずっと遠くから聞こえてきたはずなのに、その声の主――竜二は稲妻の如き素早さで司を自らの背にかばい、発砲しようとした男に逆に容赦ない一発をお見舞いした。
 それにより逸れた敵の銃弾が竜二の耳をかすめる。


「平気か?」
 何事もなかったかのように安否を確認してくる竜二に対し、司は真っ赤になって叫んだ。
「竜二!! 何度言えばわかるんだ!! お前が俺をかばうなんてことはしちゃいけないんだぞ!! 俺は何のためのボディガードなんだよ!」
 助けてもらったというのに、礼を言うどころか文句の嵐である。
 しかし言われた相手も然る者だ。
 ぎゃんぎゃんとわめく司を無言でじっと見下ろし、無表情のまま言い返した。
「……お前こそ。何度言わせる気だ。敵に手加減は無用。相手の完全な無力化状態を確認するまで気を抜くな」
 その声が想像以上に鋭くて、司は思わず後ずさる。
「べ、別に気を抜いたわけじゃ……」
「だが現に背中をとられかけた」
「いや、それはそうだけど……でも!! あれくらいなら自分で避けられた、と思う……」
 語尾が尻すぼみになったのは、決して自信がないわけではなく、自分を睨む竜二の視線がかなり厳しかったからだ。
 ついでに言えば、司が後ずさりした分だけ竜二も距離を詰めている。
 竜二が右腕を上げ、その手を司の顔の前にかざした。
「――っ!!」
 なぜか反射的に目を瞑って首をすくめた司は、次の瞬間、頬に触れる暖かい感触に目を見開いた。
「……竜二?」
「無事で良かった」
 ぶっきらぼうな一言だったが、竜二は心からの安堵の表情を見せていた。
 司の頬に触れる手は、真綿を包むように優しい。
 竜二の表情に呆けたように見惚れていた司は、胸が詰まるような気持ちを抑えられなかった。
 司は頬から離れていこうとした竜二の手を捕まえ、両手で挟んで自らの額に押し付ける。
「悪い」
 司の謝罪の意味を、竜二が目で問う。
 手を握ったまま、額を離した司は困ったような笑顔で応えた。
「確かに、ちょっと、油断した。次からは気をつける。だから、お前も身体張って俺を守るなんて真似はしなくていいから」
「……」
「……お前。『それは無理だ』とか思っただろう」
「……」
「……こら!! 俺は、お前のボディガードだぞ。ボディガードをお前が守ってどうするんだよ」
「仕方ないだろう。気がついたら身体が勝手に動いているんだ」
 以前にも言われた台詞だった。
 しかし何度言われても照れるものは照れる。司は顔が熱くなるのを感じた。
 なんだか、内面がむずむずする。
 司は動悸を鎮めるために目を閉じ、一度息を吐き出して竜二を正面から見つめた。
(まったく、俺はすっかり参ってるみたいだ)
 もちろん竜二に。
 司は心の中で言うべき言葉を反芻する。


 そして笑った。
 鮮やかに。
 驚いて目を見開く竜二の耳に、凛とした声が心地よく響いた。
「約束だ」
 司は両手で挟んだ竜二の手をぎゅっと握った。


「俺はお前より先に死なないし、お前を俺より先にも死なせない」


 それは、いつか誓ったあの約束。
 竜二もふっと目元を緩めて言葉を継いだ。


「死ぬときは、二人一緒だ」


 司が満足そうに頷いた。
「わかってるじゃねえか」
 司は竜二の手を離した。
「まあ、俺たちは多分、これからもずっと互いの言うことを聞かずに互いを守るんだろうな」
 何気ない司の一言だったが、竜二は再び目を見開いた。
 司はまるでそれが決まっているかのように、当然のごとく『竜二との将来』を口にする。
 聞きようによっては、プロポーズにもなるそれは、竜二の目元をさらに緩ませる。
(こんなことを言われて、手を出すなという方がおかしい)
 内心で密かに断りを入れてから、竜二はおもむろに司の頭を引き寄せた。
「わっ!!」
 驚く司をよそに、その頭を抱いてぐりぐりと頬をすりつけた。
「何しやがるっ!!」
 真っ赤になった司が抵抗し、竜二が小さく舌打ちする。
 それを聞きつけた司が竜二に制裁を加えようと躍り掛かる。




――ひらりひらりと楽しげに司の攻撃を避ける竜二を遠目から眺めながら、やはりここでラブストッパーの役目を負うのは自分なんだろうな、と  冷静かつちょっぴり自虐的に考える渋谷がいたことを二人が思い出すのはしばらく経ってからのこと。




竜二×司を書いて欲しいというリクにお応えしてのSSです。
ちょっと甘みが足りない……?
たまにはそんな時もあるかと……(汗)


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