ある日の異変
≪オマケ≫
――ガチャリ。
おそるおそる浴室のドアを開けてこちらをのぞく朝来に、宗像は苦笑した。
先ほどふざけて一緒にシャワーを浴びようとしたことがよほど警戒感を強めてしまったらしい。
自業自得ではあるが、それでも笑いは止まらない。
「気分はどうだ?」
苦笑され、憮然としていた朝来はそう聞かれて言うべき言葉を思い出したらしい。
「なんだか少しだるいけど、昨日ほどじゃないわ。……その、昨日はありがと」
普通に言えばいいことを、こうして照れながら言うから宗像を喜ばせるのだと、そろそろ朝来も気づいた方がいいかもしれない。
案の定、楽しげな宗像は不敵な笑みを浮かべたまま音も立てずに朝来の傍に近づいた。
「!?」
先ほどまで居間のソファに座っていたはずの男が、一瞬目を離した隙に目の前にいたので朝来は驚いて固まる。
宗像はそんな朝来の耳元の高さまで腰をかがめ、意地の悪そうな声で言った。
「お前、熱出るとかなり危険」
「はぁ?」
誰よりも危険そうな男に言われたくない。
朝来がそう思っていることは宗像にもわかったが、こちらは昨日の今日である。
「昨夜なんか目ェ潤ませながら一緒に風呂に入れとせがまれたぞ」
「う、嘘言わないでよ!!」
「嘘なんかつくかよ。んで、それを了承しなかったら拗ねて俺にしがみついてきた」
「な、な、なな何わけわかんないこと言ってんのよー!!」
正気の朝来には容認できないような言動の数々で、普通ならここできっちり否定すれば終わる。
しかし、如何せん朝来には昨夜の記憶がまったくなかった。
そのため、「そんなはずはない」と固く信じながらも、どこか強く出られない。
一方、恥ずかしさのあまり顔どころか耳や首まで赤くした朝来の反応は予想通りで、宗像は笑みを深めた。
(やはりこういう反応が一番面白い)
愉しげに笑う宗像に、朝来はきつい一瞥をくれてから足早にその場から離れていった。
(死にたいくらい恥ずかしい)
以後、朝来は健康管理には今まで以上に気を使うようになる。
――おかしな言動の原因の一端を担ったのが「酒」であることは、しばらく朝来には秘密にしておこうと密かに思った宗像だった。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
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