隠れ甘々なふたりに7つのお題

2. それは一種のテロリズム


渋谷視点



「はぁ〜〜〜、気持ちよかったぁ」
 今日もしっかり竜二の護衛役を果たし、風呂で仕事の汗を流した司は、タンクトップ姿のまま飲み物を求めて屋敷を闊歩していた。


「あ、ブンさん」
「司坊? 風呂に入ってたのか」
「うん。ブンさんは?」
「俺は三代目の仕事を手伝ってたんだが……」
 ふと言葉を切り、なぜかげんなりした顔で司をまじまじと観察する渋谷。
「? どうかしたのか?」
「いや……司坊がこれじゃあ、三代目の気も休まらんだろうな……」
「は?」


 ぼそっと呟いた渋谷の声は、司には届かなかった。


 柔らかな髪と瑞々しい肌から漂う石鹸の香り。
 タンクトップの隙間から否応なく垣間見える見事な二つのふくらみ。
 ズボンの上からでもわかる細い腰とすらりと伸びた脚線。


 ふと周りを見渡すと、ところどころで司のあられもない格好に赤面したり固まったり、あらぬ方向を向いていたりする若い組員たちが結構いる。
 聡い渋谷はピンときた。


(最近、三代目が所構わず見せ付けるように司坊にちょっかい出してるとは思ってたが、やっぱりあれは牽制だったか……)


 不幸な犠牲者たちに憐憫の目を投げかけ、渋谷は司に向き直った。


「……司坊。お前、一応女なんだから屋敷内ではちゃんと服着ろよ」
「? 何言ってんの、ブンさん。ちゃんと着てるぜ?」
「いや、そうじゃなくてだな……」


 なんだか説明するのも不毛に思えてきた渋谷は、それは深い溜息をついて適当にこの話題を終わらせた。
(まぁ、どうせ司坊に手を出せるような根性もった奴、いるわけないしな)
 何せ本人の強さが半端でない上に、後ろで目を光らせているのは鬼より怖い三代目である。

 渋谷、生来の事なかれ主義発動。
 遠くから感じる若い衆のすがるような視線をきれいに無視してその場を去った。


 とりあえず彼は、自分の心の平安を確保できれば問題ないのである。





渋谷良行。やはり名前と実態がそぐわない……。

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