隠れ甘々なふたりに7つのお題


4. 恋愛取扱説明書



今日の運勢 [乙女座]

今日は謙虚な姿勢が一番☆
特に異性に対しては積極的に出ない方がいいでしょう。
うるさがられる危険有り。


「ふん」
 たまたま、今日の自分の運勢を目にした竜二は鼻で嗤った。
 占いなどという子供だましで、一日を左右されてたまるか。
(うるさがられるのはいつものことだ)
 自分で言って空しくなるような感想を平然と心の中で唱えた竜二は、パソコン画面をパタンと閉じて学校へ出かけた。
 関東最大の極道、九竜組の三代目組長も、平日の日中は普通の学生なのである。

「おはよう、竜二!!」
 元気な司の声が竜二を呼び止めた。
「……なんだ。朝からえらく元気だな」
「そうか? 何だか今日はすっきり眼が覚めたんだよな。そのせいかも」
「それはいいが……お前、寝癖くらい直してから来い」
 言いながら竜二は右手を司の髪に絡ませ、景気良く上に向かって跳ねている後ろ髪を手で梳いた。
 瞬間、司の身体が軽く強張る。
 いつもならここで有無を言わせず抱きしめられるか、キスされるのだ。司の動きはすでに条件反射といえた。
 が、司の臨戦態勢は杞憂に終わる。
「……」
 ぴくりと肩を震わせた司を見下ろしながら、竜二は一瞬躊躇したような仕草を見せた後、司の頭からすっと手を引いた。
「え……」
「なんだ?」
 思わず疑問の声を発しそうになった司に対し、竜二が何事もなかったかのように問い返した。
「あ、いや。何でもない」
 事実、何事もなかったのでどこか腑に落ちないものを感じながらも司は首を横に振った。


 + + + + +


 司はその日、竜二の調子がどこかおかしいのではないかと疑っていた。
 朝のよそよそしい態度 (普段の竜二なら司を見て抱擁も接吻もしないということはありえない) に始まり、休み時間中に司に話しかける男への威嚇は少ないし、昼食中も変に距離を詰めたりせず普通に座って食べていた。 体育の時間も、普段なら司が男に混じってサッカーやバスケをするのを 嫌がるくせに (司の運動神経は尋常ではないので別に男に倒されたり怪我をしたりすることはない)、今日は何も言わず黙って見ていたのだ。
(竜二が大人しい……不気味だ……)
 司へのちょっかいや小言が異常に少ないことに不気味さを感じるのもどうかと思うが、司は真面目だ。
 いつも護衛として控えている渋谷にもそっと耳打ちする。
「あのさ……竜二、今日何かあった……?」
「三代目が? いや、見たところ別に何も変わったところはないと思うぞ」
「……だよなあ」
 やはり渋谷にもわからないらしい。
 それでもすっきりしない司は、帰り際、思い切って竜二本人を問い詰めることにした。


「竜二」
 椅子に座っていた竜二の前に、司が立ちはだかった。
「どうした?」
 司を見上げる形で、竜二が問う。
 と、その時。
 司の顔が突然接近してきた。
――ヒヤリ。
 さっきまで外にいたせいか、わずかに冷たくなった司の額が竜二のそれにぴたりと押し当てられていた。
 司の目は閉じている。
 竜二の視線は自然と司の口元に集まるようになる。
 一瞬、このまま唇も近付けてしまおうかと考えたが、それを実行する前に司が離れていった。
「ん〜。熱はないよな」
「?」
 どうやら熱を測られたらしいが、なぜそんなことをされるのか竜二には理解できない。
 疑問を浮かべる竜二を放ったまま、司は一人考え込み、ふと思いついたようにぽんと両手を打ち鳴らした。
「よし。じゃ、次」
 そう言うが早いか、司は竜二の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「……だから、何だ?」
 乱れた髪もそのままに、竜二が低い声で再度問う。
「え!? これでも普通なのか? お前、今日どっか調子悪い?」
 司の方こそどこか悪いのではないか。
 竜二はよほどそう言ってやろうと思ったが、続く司の言葉に遮られた。
「だってさあ、お前今日なんか大人しい、というか謙虚じゃねえ? 全然からんでこないし、文句も言わねえし。前に頭撫でたときは襲おうとした奴が、  なんで今日に限ってこんな普通なんだ?」
 しれっと失礼なことを言いながら、司は本当に疑問に思っている様子で首をかしげた。
(…………)
 表情にこそ出さないが、竜二には心当たりがあった。
 しかしさすがに本当のことは言えない。
 竜二は平然とした顔のまま、司をじっと見つめ返した。
「……な、なんだ?」
 思わずたじろぐ司に、竜二が意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「お前、実は俺に絡まれないことが物足りなかったんだろう?」
「はあ?」
「お前、今日一日中ちらちら俺のこと見てたじゃねえか」
「な!! そ、それは、お前のことが心配で……」
「お前に近寄らない俺が気になって気になって仕方なかったんだろう」
「んな!! 何を言ってるんだね、君は!!」
「そんなに触って欲しいとは気づかず、悪い真似をしたな」
 そうして、竜二は再びニヤリと笑った。
 顔を真っ赤にした司の振り下ろす拳を片手で受け止め、慣れた仕草で司のこめかみにちゅっと音を立ててキスをする。
「〜〜〜〜」
 ここは教室だ!! と叫びたいのを我慢している司を、竜二は可笑しそうに見つめていた。



「司から寄ってくるんなら、あの占いも中々捨てたもんじゃないかもな……」
 ぼそっと呟かれた竜二の言葉は、司の耳に入ることはなかった。





放課後の教室で。
そんな場所でイチャついていて、誰にも見つからないのは、目ざとく二人っきりの場面を見つけた浅羽くんが他の人間を教室に近寄らせないようにしていたからだったり……
いや、まあ、後から考えた設定なんですけどね(笑)
どーでもいいですが、りうぢって「乙女座」なんですよね……似合わねー。

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