隠れ甘々なふたりに7つのお題


6. まさかの疑惑


朝来視点(宗×朝)



――最近、アイツの態度がおかしいわ……

 季節は秋。
 守門の屋敷の庭の紅葉も見事に色づいて殺伐とした組の中にすら幾ばくかの癒しを与えてくれているというのに、朝来の心は晴れなかった。
 見事といっていいくらい雲ひとつない蒼穹を、八つ当たり気味にぎろりと睨む。
(まったく、昨日はあれだけ大雨だったってのに、今日のこの青空ときたら嫌味なくらいに気持ちがいいわ!)
 その移ろいやすさは男心に例えるべきか、はたまた女心に例えるべきか。
 そんな考えが頭に浮かび、朝来は内心で即答した。
(男心に決まってるじゃないの)


 朝来が真っ先に思い浮かべたのは彼女の思い人、顔に傷持つポリスのことである。
(前はことあるごとにひっついてきたり、抱きしめてきたり、……キ、キスしてきたりしてたのに……)
 最近の宗像の態度の変化を思い、朝来は気分が落ち込むのを感じた。
(昨日だってせっかく会いに行ったのにそっけなく追い返されて)
「悪いな、仕事だ」の一言で終わり。
(その前に会ったときも、確か一切触れてこなかったわね……。髪にも触らなかった……)
 柔らかで指どおりの良い髪は朝来の自慢だ。宗像がいつも触ってくるからお手入れだって念入りに行っているのに。
(いえ、別にあいつのためってわけじゃないけど……)
 心の声に自ら反論するのも何か虚しい。
 とにかく、そっけないどころかわずらわしそうに自分を見るあの男の態度が許せないのである。
(だいたい、この私から会いにいってあげてるのにあんな嫌そうな顔するってどうなの!?   いつもは問答無用で色々と触ってくるくせに、急にそっけなくなるなんて失礼な男だわ!!)
 触れられたら触れられたで緊張と羞恥でいつも大暴れする自分のことは棚にあげて、朝来は相手を罵った。
(……………もう嫌になったのかしら)
 実は朝来は、先ほどからこうして何度も考えては同じ結論に至り、肩を落としていたのである。


 一人で考え、一人でドつぼにはまっていく朝来の腰の辺りが不意に震えた。
(携帯……?)
 急降下した気分では誰が相手でも剣呑な声で対応してしまいそうだったが、居留守を使うのも気が引ける。
 朝来は溜息を吐きながらぞんざいな手つきで通話ボタンを押した。


「……見るに耐えねえ顔だな……」


 通信画面の向こうにいる目つきの悪い男が、開口一番のたまった。
 ピクリと朝来の片眉が上がる。
「……誰のせいだと思って」
 ぼそぼそと呟いた声は相手には届かなかったようだ。
 が、宗像は一瞬怪訝な表情をしたあと、すぐに何かに思い当たったように得たりと頷き、次いで口の端に不敵な笑みを刻んで朝来を見つめた。
「ふぅん……」
「な、何が『ふぅん』よ!」
 いつもいつも勝手に納得して。すべてわかったような顔されたら馬鹿にされたようで腹が立つ。
 朝来は不機嫌に怒りを混ぜて怒鳴り返した。
 たとえ、それがすべて無駄な行為だとわかっていても。


「そんな顔してないで出て来いよ」
「は?」


 なんの脈絡もない言葉に、突拍子もない声で返してしまったのは朝来の責ではないだろう。
 画面の男は可笑しそうな顔をして、自分の持っている携帯をくるりと反転させ、ある画像を映し出した。
「なっ!!」
 叫ぶと同時に朝来は駆け出した。
 驚愕、困惑、疑念、さまざまな感情の渦の中で彼女の足を動かしたものは隠しようのない喜悦だった。
――画面に映ったもの、それは、守門組の屋敷の門だった。
 家の外にアイツがいる!!


 息を切らし、肩を上下させながら、それでも半信半疑で外に出る。
「……なんでいるのよ」
 しかし出てきた言葉は可愛らしさのかの字もなかった。
 それでも宗像は気を悪くするどころか微笑を返す。
 その瞳の中に、可愛くて仕方がないといった光が宿っているが怒れる朝来にはわからない。
 宗像は次第に眉間に皺を寄せる朝来の肩を軽く抱き寄せ、その極上の低音を耳朶に直接響かせた。


「かまってくれなくてさみしかったか……?」


 瞬間、朝来は理解した。


(こ、こんの男〜!! 信じられない!! わざとね? わざと私を不安がらせるような態度を取ってたのね!!)


「覚えてらっしゃい!!」
 ぱちんという小気味良い音と共に、朝来は怒りに顔を染めて家の中へと走り去った。
 一方、庭の紅葉に負けないくらい紅い痕を頬に作った宗像は、腹をかかえて笑っている。
(くっくっく……。そうそう、これこれ。こういう反応)
 携帯の画面越しの彼女は不機嫌さの中に隠しきれない不安を内包していて。
(庇護欲をそそるんだよなあ)
 次に全力疾走で目の前に現れた彼女は驚愕を顔に張りつかせながらも溢れんばかりの喜びで目をきらきらさせていて。
(苛めたくなるのは仕方ないだろう)
 甘い声で囁いてやったらびくっと肩を震わせて緊張したのに、最近の不安の元凶を知るやいなや般若の形相で張り手をお見舞いされてしまった。
(やっぱり面白い)


 朝来がこの宗像の内心の声を聞けば、これまで不安がっていた自分を罵倒し、立ち直れなくなることは必至であろう。
 こうして彼は朝来を一喜一憂させ、常にその心を自分で満たすという実に身勝手な行動を当然のように取る。


 朝来の前途は多難であった……。





しかし朝来はどんなに怒っても、結局は宗像の口八丁手八丁(主に後者)によって丸め込まれるのである。
でも実は相手を手放せないのは宗像の方だったりして。

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