恋する動詞111題
01.焦がれる
例えば、仕事帰りの車の中荷物しかない助手席を横目で見るとき。
例えば、風呂上がりに水を飲みながら誰もいないソファにふと目をやるとき。
例えば、独りのベッドで寝がえりをうって無意識に腕を伸ばしたとき。
ふわふわした触り心地の良い髪。
そこからほのかに感じる甘い香り。
勝気そうな大きな瞳。
細身でどこもかしこも柔らかな白い肌。
―――そんな、可愛くて仕方がない朝来にこの一週間会えていない。もちろん触れてもいない。
「……む、宗像さん!」
「あぁん?」
意を決した風の同僚に呼ばれた宗像は街のチンピラのごとき返事で応えた。
デスクワークももう少しで終わる午後7時も過ぎた頃である。
この一週間というもの、日を追うごとに宗像という男の機嫌は急速に下降していた。
それはもう、上司も同僚も出来る限り関わり合いにならないように細心の注意を払う位に。
だが、そんなときに限って凶悪犯罪とは起こるもので。
「っ、本日逮捕した男のことですが」
「……取り調べは任せると言ったはずだが?」
「それが、思いのほか口が固く……」
「ほぉ〜〜う?」
がたんと音を鳴らしてゆらりと立ちあがった宗像に、声をかけた同僚は心の叫びをあげた。
(ヒィィッ! 誰かこの役目を変わってくれ!!)
だがしかし。残念ながら回りの人間はことごとく目を逸らしているので直立不動で宗像の動きを待つしかない。
「仕方ねえな。行くぞ」
口元にほのかに笑みを浮かべつつ部屋を出ていく姿は魔王のようであったと、のちに同僚は語る。
その後、取調室で不遜な態度を取っていた容疑者がどのような目にあったかを語る者はいない。
何よりも、最大の被害者は同僚の男でも捕まった犯人でもなく、数日後に宗像に会った朝来であることをここに明記しておく。
きっと朝来は構い倒されている。なんなら早々に押し倒されている←オイ
お題だけ見ると切ない感じなのに、宗像視点にするだけでなぜかコメディーに…。
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