恋する動詞111題
12.囁く(ささやく)
朝来は小さく鼻歌を口ずさみながらシャワーを浴びていた。
少し熱めのお湯をかぶって軽く頭を振り水気を払う。
宗像の部屋に泊まることも多くなった朝来は、シャワールームにきちんと自分用のシャンプーや洗顔料等を置くようになっていた。
男物だと合わないということもあるが、前に宗像から「あんたの髪はいつもいい匂いがする」と言われたのが嬉しかったからだったりもする。
全身を隈なく洗い、鏡で確認してからそっとシャワールームの扉を開ける。
ここから出るときだけは、いくら慣れていてもなんとなくそろりとやってしまうのはここが男の部屋だからということもあるかもしれない。
白くて大きめのバスタオルで水気を拭き、持ってきたパジャマに着替えた。
髪はとりあえず小さめのタオルで巻いておいた。
(乾かすのは飲み物を飲んでからでいいか)
それから、裸足のままでキッチンに向かった。
勝手知ったる様子で冷蔵庫から水を手に取り、勢いよく飲み干しながらふとリビングが妙に静かなことに気がつく。
(嵬がいない?)
そんなばかなと思いつつ、音を立てずにリビングのソファに向かう。
背もたれの方向から覗き込むようにして窺うと、珍しく宗像が着替えもせずに寝入っていた。
(う……わぁーーー。これって、もしかしてものすごくレアな状況……?)
無防備な寝顔などほとんど拝んだことのない朝来は、声を発さないまま内心で密かに興奮した。
(ずいぶんと疲れてるのね)
深く眠りこんでいるのをいいことに、ソファの前に回り込み、フローリングに座って至近距離から宗像を見つめる。
そっと髪を右手で撫でながら、左腕を座面にのせてその上に顎をのせるような体勢になった。
宗像との顔の距離は拳ひとつ分くらいしかない。
普段ならこの時点で不埒なことの三つや四つはすでにされているが、今は存分にこの距離を堪能できるというものである。
朝来は、宗像の短い髪に指をさしいれたり、顔に残る傷跡に触れたりして存分に楽しむうちにふと思いついて少し腰を浮かせた。
横向きに寝入っている宗像の顔に覆いかぶさるようにして耳元に近づきながら。
「おやすみ」
そして触れるか触れないかの距離で―――。
「す き」
言った本人でも聞きとれないくらいの小さな小さな声でゆっくりと囁いた。
その後、ベッドルームで眠った朝来を呆れたように撫でる男が一人。
(あんなこと囁かれて、大人しく眠れるかよ)
「今日は見逃してやるよ(明日は覚悟しろよ)」
そうやって、今度は自分が囁かれたことを朝来が知ることはない。
朝来の気配で結構前から狸寝入りの宗像氏。
可愛らしく愛を囁かれてホントはもういてもたってもいられない(笑)
こーゆーことが実はよくあるのではないかと妄想←
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