隠れ甘々なふたりに7つのお題
3. 異心伝心 side:A
朝来視点
囚われたのは、私――。
例えばこういう会話。
「さっきの店員、男前やったなぁ」
「さっきの……? ああ、あのレジにいた人のこと?」
「せや。見てへんかった?」
「うーん、見たけどあんまり覚えてないわ」
「ふ〜ん。……朝やんて、あんまり男の人の顔とか見いひんよなぁ。あぁ、興味ないんか、例のポリス以外は」
「なっ!! 何言ってるのよ」
にやっと笑う菫を思わず怒鳴りつけた。
図星を突かれて焦った自分を誤魔化すように。
でも、そうなのよね。
私はあまり人の顔を見ないほうだと自分でも思う。
菫と一緒にいてもそうだけど、年頃の女の子同士でいると必ずと言っていいほど男の話で盛り上がる。
それはクラスの男子のことだったり、道行く異性だったり、入った店の店員だったりするわけだけれど、会話の内容はどれも大差ない。
あの人は格好いい、雰囲気がいい、憧れる、等々である。
……でも。
そういう可愛らしい思考は苦手……というより合わないのかしら?
だって私は極道の女よ?
もともと竜二の許婚だった私は幼い頃から彼しか見えていなかった。
しかも、惚れた腫れたなどという生ぬるい段階をすっとばして聖妻になるためにとにかくいろんな努力をしたわ。
いえ、しなければならなかった。
それが私の存在理由だったから。
確かに当時は竜二のことが好きだったけど、それはやっぱり恋というより義務の色合いが強かったのだと今では思う。
そう思うようになったのは、悔しいけど「あいつ」のせい。
自信家で傲慢で凶悪で手が早い。
いつも人を見透かしたような顔をしているムカつく男。
噂をすれば影がさす。
待ち合わせにあいつがやってきた。
カフェの中に入り、きょろきょろすることもない。
一瞬で私を見つけて、フッと笑うのはいつものこと。
――そんな男の視線から目を逸らせなくなったのはいつからだろう。
肉親や、クラスメイトや、竜二ともまったく違う。
「お前は俺のものだ」と強烈に主張している目の色。
なのに優しく見つめるなんて、反則にもほどがある。
――耳元で囁かれる低い声に、甘い痺れを感じ始めたのはいつからだろう。
最初はただただ恥ずかしくて火照る顔を隠すことに必死だった。
でも今はそれだけじゃない。
何も考えられなくなるんじゃなくて、あいつのことしか考えられなくなる。
――抱きしめられることがこんなに安心できるものだと知ったのはいつだっただろう。
身体ごとすっぽりと抱え込むことが出来るほど広い胸と長い腕、規則正しい心音。
身動きすらさせてもらえないけれど、すでに離れる気なんてこれっぽっちもないことにやっぱりあいつは気づいているかしら。
ああ、悔しい。
その目も、その声も、その腕も、もう絶対に手放せない。
義務ではなく。
しなくてはならない、ではなく。
手放したくない。
守られたい。
守ってあげたい。
こんなにも私は溺れてる。
けど、あんたはどうなのかしら?
強い想いと知りたい気持ちを視線にのせて。
私はいつものように近づいてくるあいつを真っ直ぐ見つめる。
愛されてますね、宗像氏。
「当然だ」と彼なら言いそうですが。
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