甘やかな3つの願い


3. 叶うなら、永遠を





 翌朝、清々しく目覚めた司は自分の格好に首をかしげた。
 昨日は九竜組の屋敷へ戻った後、そのまま竜二の部屋に直行したから当然寝巻きなどに着替えているはずがない。
 それなのに、ベッドの中の自分はタンクトップとショーツ一枚というあられもない格好だ。
(〜〜〜こぉの野郎。まぁた俺の服を勝手に脱がせたな!!)
 隣で珍しくすやすやと眠りこける竜二を睨みつける。
 この男ときたら、俺が寝ている間に(実は起きているときもそうだが)服を引ん剥く天才だ。
 憤慨した様子の司の肌を朝の冷気が撫でていく。
「……まったく、寒いじゃねーか」
とか何とか口では不満を言いながら、その実、それを口実にして再び竜二の腕の中にもぐりこんだ。
(まあ、アレだ。それとこれとは別っていうか……)
 怒っているくせに、その原因となる人物に自ら擦り寄っていく矛盾には目をつぶる。
(あったかい)
 竜二の体温は気持ちよく、直に触れている安心感は心地よい。
 目を覚ましているときは肉食獣でも、こうして寝ている竜二はかわいらしいものだ。
 自分でもわかるくらいにやけた頬に両手を当てて、司はまったりとしたひとときを堪能した。


 目が覚めたとき、竜二は一瞬自分がどこにいるのか本気でわからなくなった。
 それくらい深い眠りだったのだと気づく。
(ずいぶん眠りこけてしまったようだ)
 すっきりと軽くなった頭を傾けると、自分の腕が枕代わりにされていた。
「司?」
 昨夜と同じ問いを口にした。
「あ。竜二。おはよ」
 昨日と違い、やたらと明るい声が返ってきた。それに安堵する自分に内心苦笑する。
「お前、よっく眠ってたなぁ。珍しいもん見たわ」
 カラカラと笑って司が言った。
「……ああ。どうやら疲れが溜まっていたらしい」
 そんなことを言いながら、起きて早々煙草に手を伸ばそうとして、横から叩き落とされた。
「…………」
 無言で睨むが、相手もそれ以上に睨み返してくる。
「やりすぎだぞ」
 司がそう言って指差した先には、吸殻でてんこ盛りになった灰皿がある。
「ちっ」
 竜二の小さな舌打ちを耳ざとく聞きつけた司は、ぷんぷんと怒りながら竜二に注意した。
「お前、ちょっとは煙草控えろよ。煙草ってのは肺を真っ黒にするんだぞ!! いいか、ホントに黒くなるんだ。小学校のとき保健の先生も言ってたじゃねえか」
「んなこと、いちいち覚えてねえよ」
「ええい。口答えするんじゃねえ! とにかく、お前、朝だけでも煙草は禁止。いいな?」
 本人無自覚の上目遣いおねだり攻撃に、竜二が敵うはずもなく。
 しぶしぶといった風に喫煙を断念する竜二に、司はうんうんとうれしそうに納得した。

「……そこまで言うんなら、もちろんニコチン中毒の症状も和らげてくれるんだろうな?」
「は?」
 憮然とした表情の竜二の言葉に、司は間抜けな声で応えた。
「煙草を吸うなというからには、それなりに代わりとなるものを用意してくれてるんだろう?」
 だんだんと、竜二の表情が活き活きしてきたのは、気のせいだろうか……。
「か、代わりって言ったって……」
 本能的にいやな予感を感じ取った司は、思わず目を泳がさせる。
 落ち着かない司とは対照的に、竜二はすでに標的に狙いを定めた獣のようだ。
「何も用意してないのか? 仕方ねえな。それじゃ、身体で払ってもらうことにしよう」
 それはどこの取り立て屋だ!! という司の心の叫びは音になることはなく。
 昨夜の続きかと思えるほどの濃厚なキスを力いっぱいお見舞いされて、司の全身の力が抜けるまで時間はそうかからなかった。


 竜二が力の抜けた司に覆いかぶさりながら、こんな『代わり』が得られるなら禁煙するのも悪くない、などと考えていることを司は知る由もない。
 ちなみに、何だかんだと言いながら、竜二とのキスにまんざらでもない司の気持ちを、竜二はお見通しだ。


 なんでもない、こういう日常が続けばいいと、二人同時に思ったことはお互いに秘密である。





えっと、すみません。こいつらキスばっかしてますね……まあ、今回はこんなもんで。

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