攻め気味な20のお題





 夜半過ぎ。
 不意に目覚める時がある。
 何となく、再び瞼を閉じる気にもならない。
 その原因はいつもだいたい決まっていた。




1. 捕んだ両腕、捕えたココロ





 宗像は腕を上げようとして、失敗した。
 袖の部分を、隣で寝ている朝来が両手でぎゅっと握って離さなかったからだ。
 朝来は小柄な身体をこちらへ向け、少し丸まるようにして宗像に寄り添っている。
 可愛らしい唇からは規則的な寝息が微かに聞こえてくる。
「…………」
 宗像はほんの少し眉をひそめた。
 朝来ではなく、袖を睨みつける。
 宗像は眠るときはいつも服を着ない主義なのだが、「二人」で寝るときは別だった。
 否、最初は彼も服を着るつもりなどなかったのだ。
 しかし、隣で裸で寝られたらこっちが眠れない、と朝来から苦情を言われたために(さらに言えば、服を着ないなら一緒に寝ないと言われたために)、  仕方なく薄手のシャツを一枚着ることで妥協したのだ。
 しかし、やはりどうもいけない。
 シャツの着心地が悪いとか、服を着たら眠れないとか言っているわけではない。
 だいたい、そんな繊細な神経をこの男が持っているはずがない。
 かといって、朝来にぴったりくっつかれていることが不快なわけでもない(むしろ愉快だ)。
 宗像が密かに不満に思っているのは、隣で眠る朝来が彼の「腕を抱いて」いるのではなく、「袖を掴んで」いることに対してであった。
 起きているときには絶対に見せないような安心しきった表情で、無防備に抱きついてきてくれるのは良い。
 それはもう大歓迎だ。
 だがしかし、服を着ていたらせっかくの朝来からの抱擁を享受するのが自分ではなく服になっているようで、まったく気に入らない。
 以前、どうせなら腕枕でもしてやろうかと言ったこともあるが、朝来は恥ずかしがって拒否するのだ。
(まあでも眠ってしまえば無意識にひっついてくるところがかわいいんだがな)
 思わず口元が緩む。


 それから宗像は朝来の手の甲に自分の手の平を重ね、小さな指を一本一本、ゆっくりと袖からほどいていった。
「ん……」
 朝来の口から吐息が洩れるが、これくらいでは目を覚まさないことを宗像はすでに知っている。
 それをいいことにどさくさに紛れて寝ている朝来の乾いた唇に口付けを落とす。
 そしてそんな不埒な真似など知らぬ顔で平然と朝来の両手から袖の自由を取り戻した。
 そのせいで仰向けになりそうな朝来の肩を引き寄せて身体ごとしっかりとこちらを向かせることも忘れない。
 最後に宗像は朝来のその細い身体を包み込むようにして抱き寄せ、まだシャンプーの香りの残る柔らかな髪に顔をうずめるようにして眠る体勢に入った。


――これで今夜もぐっすり寝られそうだ。


 その思惑どおり、彼は再び意識を夢に溶かしこんだ。





抱き寄せてキスするだけって、宗像にしては意外と紳士的な態度です。(お題は「攻め気味」なのに…)

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