攻め気味な20のお題





夜明け前。
少し息苦しくて目を覚ます。
もう慣れたその場所は、いつもとても暖かい。
それが何より心地良いなんて、絶対に口に出したりしないけど。




2. 離さない





 朝来はすっぽりと包み込まれていた。
 宗像の腕の中に。
 確かに最近はよく一緒に寝るし、同じ布団の中にいるのだからそれなりに密着もするだろうが、これは少々くっつきすぎではないだろうか。
 朝来が内心で不満を洩らすのも無理はなかった。
 今、宗像と朝来の間には一部の隙間もないのだから。
 宗像はいい。彼は朝来を抱きかかえてそれは健やかにいくらでも惰眠を貪れるだろう。
 しかし、抱きかかえられている方の朝来はしっかりと腰の位置を固定されているために身動きが取れない。
 加えて宗像の胸に顔を押し付けられる格好となり、その上に布団まで被せられているものだから、息苦しくて仕方がない。
 まあ腕枕は気持ちいいと言えなくもないけれど……いやいや。そんなことは今は問題ではない。
「ん〜〜〜……」
 微かに呻き声を上げながら、朝来はなんとか宗像の腕からの脱出を試みた。
 まずはゆっくりと両腕の自由を取り戻す。
 それから腰に巻きついている長い腕をほどきにかかり、なんとか身体ごと抜け出すことに成功した。
 やっと普通に呼吸ができるようになり、ほっと息をつく。
 それから上体を起こし、薄暗い部屋の中で静かに眠る隣の男の顔をじっと見た。


 寝ているときはかわいい、なんて嘘だ。それはもう大嘘だ。
 だってこの男ときたら、寝ているときでもなぜか凄みを利かせているようにしか見えないのだから。
(この傷がいけないのかしら)
 宗像の右のこめかみにはっきりと残る傷痕をそっと指先でなぞりながら朝来は考えた。
(……違う気がする。凶悪面は生まれつきね。絶対)
 失礼千万な結論にあっさり到達し、朝来はくすりと笑いを洩らした。
 確かに宗像は目つきは悪いし、表情は不敵というのがもっとも似合う。  でもこうやってよく見ると顔立ちは整っているし、すっきりとした目元や薄く形の良い唇にはどぎまぎするような色気があるのだ。
 せっかくいいものを持っているのに、纏う雰囲気が怖すぎてあまり気づかれないのが面白かったのだ。
 そのことを自分だけが知っていることにささやかな独占欲があることを朝来は自覚していない。


 しばらく宗像の顔を見つめて、ふと思いついた自分の考えに、朝来は一人で赤くなった。
「…………」
 これが宗像なら逡巡さえしないだろうが、朝来にとってはその行動を起こすにはかなりの熟考を必要とした。
 でも決してその行動をやめようと思わないあたり、かなりこの男に毒されているのではないかと、頭の隅でちらりと思う。
 朝来は再び宗像との距離を詰めた。
 そっと彼の頬をなでて起きないことを確かめる。
 それから意を決したようにごくりと唾を飲み込んで、そっと、羽が触れるくらいの軽いキスを薄い唇に落とした。
 たったそれだけのことなのに、妙に気恥ずかしさを覚え、朝来はかぁっと全身が火照るのを感じた。
 急いで布団にもぐりこみ、宗像に背を向ける形で横を向く。
 その時だ。
「――!!」
 思わず声を上げそうになり、寸でのところで飲み込んだ。
 横を向いて寝転んだ瞬間、寝ているはずの(実際寝ている)宗像が再びその腕を腰に回してきたのだ。先ほどとは朝来の身体の向きが逆だが、またしても 宗像に抱え込まれて身動きが出来なくなった。もちろん、振り向くことも出来ない。
 真っ赤な顔と、早鐘を打つ心臓に気づかれないことがせめてもの救いだと思いながら、朝来はもうその場所から抜け出そうとは思わなかった。
 少し冷えた身体に、宗像の高めの体温がひどく気持ちいい。
 まだ太陽さえも顔を見せていない時間帯だ。
 朝来は間もなく、すとんと眠りに落ちていった。


 そんな朝来の一部始終を、宗像が半眼になって観察していたことに朝来自身が気づいていないことが、彼女にとっての救いだろう。


「まさか、お前に寝込みを襲われるとは思わなかったぜ」


 鉄拳制裁付きの猛抗議が飛んできそうな呟きは、朝靄とともに消えた。
 緩む口元を引き締めようともせず、宗像は後ろから朝来を引き寄せた。
 しかし、無防備な寝顔に思わず嘆息する。
 こちらを煽るだけ煽っておいてこの無邪気さはすでに犯罪だろう、と柄にもなく不満に思うが仕方がない。
 大人しく抱きしめるだけで、火のつきはじめた欲望に歯止めをかける。
 どうもこちらが振り回されているような気がして、苦笑しながら宗像は今夜三度目の眠りについたのだった。  





この二人、程度の差こそあれ、やってることは一緒だったり……

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