攻め気味な20のお題





 「で?」
 勝ち誇ったような笑みを向けるムカツク男。
 どうしていつもこの男にいいようにしてやられるのかしら……




6. わざとだよ





「だ、だから! 脚が痺れて……」
「膝枕のせいか」
「そ、そうよ」
「ほぉう」
 まったく納得していない顔で、宗像は立ったまま朝来を見下ろした。
 対する朝来は、ソファの上に座ったまま、宗像から目を逸らして身体を縮こまらせている。
「だがまさか、ソファから蹴落とされるとは思わなかったぜ」
 わざとらしく大仰に肩をすくめて、宗像は溜息を吐いた。
「仕方ないでしょう! わざとじゃないわよ。だ、だいたい、あんたがキスなんかしてくるから……」
 朝来は必死に言い訳した。

 膝枕のまま眠ってしまった宗像を起こした朝来は、すっかり痺れてしまった脚と突然のキスのせいで、思わず宗像の頭を膝から落としてしまったのだった。
 宗像が寝起きとも思えぬ反射神経で見事に身体を捻って受身を取ったから、結果的には大事にはならずに済んだ。
 が、この男がこれで済ませてくれるはずがない。

「もうちょっとで机の角で頭ぶつけるところだったぞ」
「わ、悪かったわよ!」
「な〜んか、謝ってもらってる気がしねえな」
「……」
 朝来が何を言っても無駄だった。
 無言で先方の様子を窺う。

 ギシッ。

 ソファのきしむ音。
 朝来がはっと気づいたときには、すでに宗像は右膝をソファに乗り上げ、朝来を囲むようにして背もたれに両手をつき、腰をかがめていた。
 あっという間に追いつめられた。
 逃げ場はない。

「さて。改めて謝罪を要求するか」
「―――っ!!」
 唇に息がかかるくらいの至近距離では、謝罪要求の言葉も睦言に聞こえる。
 朝来は早鐘を打つ心臓を必死になだめた。

 一方宗像は、ぎゅっと目をつぶって身体を小さくする朝来の様子をそれはそれは愉しそうに眺めていた。
(相変わらず、可愛い反応を返すねぇ)
 期待通りの朝来の態度にご満悦の様子の宗像は、さらに朝来との距離を詰め、今度は耳朶に唇が触れるか触れないかというところで小さく囁いた。
「――――――」
「――なっ!! む、無理よ!!」
 宗像の要求を聞いた朝来の反応は予想通りだ。
「ふぅん。つまり、謝る気がないんだな?」
 挑発的な宗像の台詞に、朝来もさすがにカチンときた。
「ちゃんと謝ったじゃないの!! 理不尽な要求を拒否するのは当然でしょう」
 まったくもってその通りなのだが、無理が通れば道理は引っ込むものである。
「何言ってる。謝罪ってのは、被害者が納得するまで行うのが筋ってもんだろうが」
「無理矢理言うことを聞かせようとしている人のどこが被害者なのよ!!」
 道理は引っ込んでも、朝来の強情さは中々引っ込まないらしい。
 しかしそれでも、宗像の勝ち誇ったような笑みは消えることはない。
「いいのか? そっちが要求を呑まないなら、こっちから勝手に色々とさせてもらうが……」
 『色々』の部分を妙に思わせぶりに強調する。
 朝来の頬がひくっと引き攣った。
 もう一押し。
「キスくらじゃ、済まないかもしれないぜ?」
 鼻先を息が掠めるくらいの距離は変えず、低い、ぞくぞくするような声音で語りかけた。
「呼べよ」
 再度要求を口にする。
 そのあまりの色気に、朝来の心臓は爆発寸前だ。
「…………〜〜〜っ!!」
 もうこれ以上は耐えられないというくらいに紅潮した頬のまま、朝来が無言の叫びを上げた。
「ほら」
 もう一度、促す。
 謝罪はあくまで朝来が自発的に。
 宗像の意図は明らかだ。

 沈黙。
――そして。

「…………嵬」

 朝来が小さく名を呼んだ。

「ん?」

 名を呼ばれたことで火のつきそうになる内心を密かに制しながら、宗像が応える。

「ご、ごめんなさい」

 言ってから、朝来の両手が宗像の頬へ。
 引き寄せようとしてほとんど力が入らず、朝来の方から近づく形になる。

 キス―――は、頬に落とされた。
 唇を離した朝来は『これでいいか』と眼で言いながら睨んでいる。
 頬は林檎のようだ。
(どうするかな)
 意地の悪いことを考えながら、宗像は片眉を上げてみせた。
「なんで頬なんだ?」
「『名前呼んで、謝って、キス』が要求でしょ。『どこに』とは言われなかったわ」
 拗ねたように顔を背けながら朝来が言い返した。
「……確かに」
 その通りなのでさすがに宗像も納得する。
「仕方ねえな。今回は許してやるか」
 偉そうにそんなことを言いながら、宗像は笑った。
 実に楽しそうな笑みだったのが、朝来には気に入らなかったが、とにかくこれで追いつめられた獲物の心境からは脱せそうだった。

(こいつの声は心臓に悪いのよ)
 朝来は安堵と共に、盛大な不満を内心で吐く。
 頭の奥から腰まで痺れるような感覚に陥らせる宗像の声は、はっきり言って反則だ。
(だいたい、こんな風に追いつめられて、あんな声で迫られて、抵抗できるわけないじゃない!!)
 悔しいので口には出さないが、朝来はいつか絶対に逆の立場で逆襲してやろうと心に決めた。


 極道の女をなめるんじゃないわよ!!


 朝来の密かな宣戦布告だった。





宗像氏、ちょっと期待はずれ? 残念でしたねv

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