攻め気味な20のお題
「どう、かしら……?」
朝来は不安と期待が入り混じった表情で宗像を見つめた。
そのとき目に入ってきた宗像の顔がひどく満足げで、朝来はなぜか急に恥ずかしくなって顔を背けた。
7. 罠
時は少し遡る。
外はぬけるような青空だった。
時折吹き抜ける風が頬に心地よく、こんな日は散歩も悪くないと思わせる暖かい日だった。
「外出するか」
宗像の提案により昼過ぎからデートと相成った二人は、朝来の希望により映画や買い物を楽しんだ。
特別なことをしなくても、好きな人と一緒なら何をしてもうれしいものである。
極道の娘で、抗争で片腕を切り落とされたり、元婚約者を撃たれたりとなかなかヘヴィーな経験を持つ朝来でも、その辺の感覚はまっとうな乙女である。
「服、買うか」
そう言われて綺麗な服の数々がディスプレイされている店に入ってうれしくないはずがない。
なぜか宗像に、多少強引に連れ込まれた感がある点だけがそこはかとなく不安であったが、目の前のキラキラしたドレスやワンピースに胸を躍らせたことは事実である。
何となく腑に落ちない感覚は意識の底に押し込めて、朝来はうきうきと洋服の試着に入った。
しかし、何着か着てみたところで、朝来の気分は落ち込んでいった。
似合わないのだ。
フォーマルなドレスはどれも朝来には早すぎる感じがするし、かといってあまりかわいらしすぎるのは趣味ではない。
胸元の開いたワンピースは自身の気にしている部位を強調されるようで即却下。
若い女の子向けの洋服もたくさんあったが、これといったものは見つからなかった。
結構な時間をかけて試着した割にはいいものを見つけられなかった朝来に、宗像が声を掛けた。
「なんだ。いいのがなかったのか」
「……ええ」
宗像は落ち込む朝来の腕の中を覗き込み、試着済みの洋服を見て器用に片方の眉を上げた。
だが何も言わずに、おもむろに店内の商品を選別しにかかった。
ゴツい悪人面の男が可愛らしい婦人用の洋服を選んでいる姿はどこかシュールだったが、朝来が呆気に取られている短い間に宗像はいくつかの洋服を抱えて戻ってきた。
「ほらよ」
「?」
服を渡されて、首を傾げる朝来に、宗像は試着室を顎で示して着るように促した。
まさかこの男が自分の服を選んでくれるとは夢にも思っていなかった朝来は驚きに目を見張るが、めったにない好意をフイにするのも躊躇われて、大人しく試着をはじめた。
そして着替えること三回。
最後に着たのは黒のワンピースだった。
そして、冒頭の台詞へと戻る。
顔を背けた朝来には見えていなかった。
満足げな宗像の双眸に、獲物を狙う光が潜んでいたことに。
そのワンピースが罠だったと朝来が気づくまで、あと数時間――。
可愛い朝来を着飾って愛でる宗像。……おやぢ?w
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