攻め気味な20のお題





 押し殺した可愛らしすぎる声を聞きながら。
 触れるたびに返される過敏な反応を確かめながら。
 腕の中にすっぽりと収まる、その華奢な身体を抱き寄せて。




12. 「……単なる腹いせだ。」





――ピルルルルル……


 聞きなれた着信音への反応は、宗像よりも朝来のほうが早かった。
 せっかくいい感じに身体の力が抜けてきていたのに、突然の異音によってまた強張った朝来の様子を宗像は恨めしげに見つめた。
 しかし決して体勢を変えようとはしない。
 だが、しつこく鳴り続ける耳障りな音のせいで、先ほどまでの色めいた空気が霧散してしまったことは確かだった。

「……」
「……嵬。鳴ってるわよ」
 着信を故意に無視する宗像を焦れた朝来が躊躇いがちに促した。
「聞こえねえ」
「なわけないでしょ! 仕事の呼び出しだったらどうするのよ」
「……ちっ


 宗像は舌打ちをして、こんなときに着信なんぞ鳴らすのはどこのどいつだと言わんばかりの顔で仕方なく携帯を手に取った。
 横目にはほっと息を吐く朝来の姿が見える。
 やはり相当緊張していたらしい。
 それでも決して嫌がる素振りを見せていなかったことから、それなりに『そういう』気分にはなっていたはずだ。
 まったく、溜息をつきたいのはこちらの方だ。
 何が悲しくて、かわいい朝来よりもむさ苦しい同僚を優先せねばならんのだ。
 しかもそれを当の朝来本人から促されるのだ。
 どうせならもっと別のときに名前を呼んで欲しいもんだ、とは口には出さないまでも態度には如実に滲ませて、宗像は携帯の画面の向こうに見える  紀勢の顔を睨むようにして要件を聞いた。


「……やっぱり仕事だった?」
 白いシーツを胸元に引き寄せながら小首を傾げて上目遣いにそう問う朝来は、おあずけを食らった男には毒だ。
 思わず朝来を掻き抱きたい衝動に駆られ、無言で理性を総動員させる宗像を朝来は怪訝な表情で見つめた。
「嵬?」
 だから、こんなときに名前を呼ぶなって。
 今すぐにでもさっきの続きがしたくなってしまうだろうが。
 と、そんなことを考えている宗像だったが、朝来にはその表情は読めない。
「お、怒ってる……?」
「……できることならあんたごと連れて行きたいところだ」
 ぼそっと呟かれた言葉に、朝来が頬を真っ赤に染めたのは言うまでもない。
 口では宗像を携帯に出るよう促したが、離れがたいのは朝来も同じ。
 むしろ宗像よりも強くそう思っているかもしれないのだ。


「やっぱり行っちゃうのね……」


 思わず口から洩れた言葉。
 無意識だったが、これは裏を返せば「行かないで」ということだ。
 はっとして口元を手で押さえたがもう遅い。
 いつの間にか宗像に押さえ込まれ、熱いキスをされていた。
 甘いキスは、先ほどまでの余韻もあって、朝来の身体の奥に火をつける。
(もっと……)
と、朝来が無意識にその先をねだった途端。
 すっと宗像が離れていった。


 今度は間違いなく残念そうな表情になった朝来に、宗像がふっと笑いかける。
 その表情が子どものようで。
 なぜ、と目で問う朝来に宗像も無言で返した。
(単なる腹いせだ)
とは言わない。
 怪訝な朝来を尻目に宗像はさっさと服を着替え始めた。
 そして去り際に一言。


「俺だけがおあずけを食らうのも不公平だからな。お前も待ってる間、俺のことしか考えなくなればいい」


 そう言って笑う宗像が妙に格好良かったとは、絶対に言ってやらないと決めた朝来だった。





結局おあずけ。彼はこういう運命なのか(笑)
でもきっとすぐにまた機会が巡ってくるはず……

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