攻め気味な20のお題
――だから。
そんな潤んだ眼であんまり真っ直ぐ男を見つめるな。
16. 「……その口、塞いでやるよ」
朝来よりも十も年上の恋人としては、初めての夜は余裕を見せたいところだが…。
そんなことを頭の片隅で考えて、宗像は内心で苦笑を洩らした。
――どう考えてものめり込んでしまいそうだ。
それが、正直な気持ちだった。
それでも、頭の片隅でまだこんなことを考えられている今はまだ余裕だ。
濃厚なキスを堪能した宗像は朝来の首筋に唇を這わせながら、両手で朝来の胸を包み込んだ。
手の平にすっぽりと収まる小ぶりな胸は張りがあって真綿のように柔らかい。
初めはゆっくりと感触を確かめるように。
それだけでも朝来はその小さな口から悩ましい声を上げる。
(随分と感度がいいな)
そう思いながら、今度は固くなったその頂を撫でた。
「やっ…ん!!」
朝来の身体が小さく跳ねる。
その反応に宗像の笑みがいよいよ深くなるが、目を閉じている朝来にはそんなことはわからない。
朝来はといえば、今の時点でもうほとんど何も考えられなくなっていた。
いつ下着を脱がされたのかも実はちょっとよくわからない。
とにかく全身が神経になったみたいで、宗像に触られるたびに勝手に身体が反応してしまう。
それを恥ずかしいとは思うのだが、身体の奥から突き上げてくるような何かに意識のほとんどを麻痺させられいた。
宗像はしばらく胸を弄んでいたが、不意に動きを止めた。
「?」
突然止んだ愛撫に朝来が目を薄く開くが、その時にはくるりと身体の向きを変えられ、目の前にいたはずの宗像を背中に感じた。
「え?」
どうして自分がベッドにうつぶせなのか一瞬理解できなかった朝来が声を上げる。――が、次の瞬間には背中を仰け反らせていた。
朝来の背筋を下から上へ、宗像の舌がなぞる。
肌に触れているのに触れていないような、絶妙の強弱で舌が背中を刺激する。
時には唇で吸い付きながら、宗像は朝来の弱い場所を的確に見つけては何度もそこを往復する。
「あっ……っ…ん、やぁっ!」
執拗に背中を攻める宗像に、朝来が抗議しようともがくが口からは頼りない声しか出てこない。
(な、に……これ…こんな、背中で、ど…して)
背中でこんなに感じるとは思ってもいなかった朝来はもう宗像のなすがままだ。
背中でも感じまくっている朝来に気をよくした宗像は、時折後ろから朝来の耳元に囁きかける。だけでなく、息を吹きかけ、耳たぶを甘噛みし、 調子にのって舌まで這わせた。
耳に息がかかっただけで身体が跳ねる朝来に、これは強烈だった。
上半身の愛撫でかなり身体が敏感にもなっている。
「だっ、だめ! や、ちょっ待って、もう、いいから」
息も絶え絶えに何とかそこまで言えた。
「気持ちよくないのか」
「……も、もうちょっと控えめな刺激のやつがいい」
わかりきった問いかけに真っ赤になった朝来が応える。
(これくらいで参られると、ここから先なんかどうするんだ)
とは思ったが、わざわざ怖がらせることもないので黙っていた宗像だった。
「うぅ…」
「…どうかしたか?」
「ずるい」
「何がだ」
「私ばっかり遊ばれてる」
「……」
沈黙は肯定だったが、これは決していつものようなからかいではない。
朝来の反応の端々に宗像自身も刺激されているというのに、余裕のない朝来には自分だけが遊ばれていると感じるらしい。
(やれやれ)
素直に感じていればいいのに。
声に出さずにそんなことを思う。
思いながらも、朝来への刺激はやめないところがこの男らしい。
「んっ。あ……ね、嵬」
喘ぎのなかで呼びかけられれば返事をしないわけにはいかない。
「ん?」
いつもより甘く返ってくる反応に、いちいち顔を赤らめながら朝来がぽそりと呟いた。
「……が、見たい」
「なに?」
「嵬の!顔が、見たいって言ったの!」
羞恥のせいか耳から首筋にかけてまで上気させて言い切る朝来に宗像が軽く目を見張る。
うつぶせのまま背中を弄ばれていた朝来がちらりと様子を窺う素振りを見せる動きに合わせて、宗像は朝来の身体をくるりと回転させた。
至近距離で切れ長の目が朝来を射抜く。
またしても突然体勢を変えられた朝来が大きな瞳を見開いている。
余裕がないながらも、しっかりとその双眸は宗像の身体を捉えていた。
至るところに生傷の痕がのこる逞しい身体。
朝来などすっぽりと抱え込めるほど広い胸。
無骨なくせに優しく触れる長い指。
そして、真っ直ぐに見つめてくる鋭い眼。
自分から宗像の顔が見たいといったくせに、いざ正面から視線を合わせると なんだかよくわからないが妙に恥ずかしくなって、朝来は思わずふいっと顔を逸らした。
「なに目ぇ逸らしてんだ」
「う……」
あなたの色気に当てられました、とは言えない。
そんなことを言おうものなら目の前の男が嬉々として朝来を攻めてくるのは目に見えている。
「ほら、こっちむけよ」
「ん」
顎をつかまれ強引に視線を合わせられ、その次の瞬間には朝来は固まっていた。
(な、なななななな……何よ、その甘ったるい顔は!!)
というのが声に出せない朝来の心の叫びだった。
普段の、人を小馬鹿にしたような視線とはまるで違った。
とろけそうな微笑に、自分がどれだけこの男に想われているかが、さすがの朝来にも感じ取れる。
知らず、身体が震えた。
――あぁ…
その瞬間、朝来が感じたのは至上の幸福感。
歓喜といってもいいその感情を、朝来はその豊かな表情に遺憾なく発揮した。
ふわり、と。
それはそれは幸せそうに微笑む朝来に。
宗像が陥落したのは言うまでもない。
ふっくらと誘うように膨らむ小さな唇に、吸い込まれるように近づいて、男はその内部を先ほどとは比べものにならないくらいに激しく貪った。
天然子悪魔朝来さん。
末恐ろしいですねぇ…
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