初めての行為に対するわずかな躊躇。
　それを上回る高揚感。
　相反するような自分の感情に、頭のどこか冷静な部分が戸惑う。

　けれど――。

17.　「加減なんか出来るかよ」

　不意に肌寒さを感じた。
　朝来はうっすらと瞼を上げて、身体の位置をずらそうとして失敗した。
「…………」
　全身が妙にだるい。そして動こうとするたびに訪れるわずかな痛みに、誰にともなく顔を背けたい気持ちになった。

「起きたか」
　独りで内心悶絶していると、隣から声がかかる。
「あ、うん。起しちゃった？」
「いいや、少し前に起きてた」
「そう」
　平常心、平常心、平常心。
　心の中はそんな独白とは裏腹な暴風雨が吹き荒れていたが、そんな醜態を目の前の男に見せるわけにはいかない。
　何でもない風を装いながら、起き上がろうとした朝来は己が服を着て寝ていたことに驚いた。
　下ろしたばかりのようなシャツは肌触りがよく、肌がべたつくということもない。
　もちろん、宗像でもあるまいし朝来には裸で寝るという習慣はない。
　しかし、最後に覚えている自分は一糸纏わぬ姿だったはず……。
　そして、途中で途切れる記憶の中で風呂に入った覚えも着替えた覚えもない。
　
「どうした」
「……ううん、服が」
「ああ。昨夜……」
「あぁぁぁ！　いい！　説明はいらない!!」
　言われるまでもなく、結論などとうに出ている。ただそんな自分を想像すると恥ずかしさで死ねそうだ。言葉を濁すことでなんとか頭の隅に追いやろうとしているのに、いちいち説明されては身がもたないではないか。
　そんな朝来の葛藤を知ってか知らずか、宗像は可笑しそうに片眉を上げただけで特になにも言うことはなかった。


　カーテンの隙間から洩れる光の明るさが、そろそろ昼前を示している。
　朝来はもぞもぞとベッドの上で動きながら、なんとか上体を起こした。
　外はとても気持ちの良い陽気なのに、己の身体の不自由さと言ったらない。
「うぅ……」
　思わず唸るような声を出してしまった朝来の頭に、大きな手がぽんと乗せられる。
「……まあ、俺が言うのもなんだが、無理するなよ」
　心配して言ってくれているのは分かるのだが、そう言う男の様子は晴れ晴れとして実に調子が良さそうだ。
　そんな諸悪の根源を恨めしげに見上げてしまう朝来を、一体誰が責められようか。
　顔を背けながら、ぽそりと呟く。
「……身体中が痛い」
「…………」
　そりゃあ、一晩中可愛がってやったからな、とはさすがの宗像も口にしない。
　代わりに、労わるように髪を梳いてやった。
「……ずるい」
「？　何がだ」
「……なんでもない」
　頬をわずかに染めてぷいっと横を向く朝来。
　そんな朝来を見て、ぴくりと眉を動かす宗像。


　――初めてなのに。初めてなのに、一晩中って……!!


　猛然と抗議したいが、思い出すだけでも赤面の昨夜のことを自分から言うなんて無理だ。
　何より、身体の痛みとは裏腹に、心が満たされているのがなんだか猛烈に悔しい。
「……ちょっとくらい、加減してくれてもいいのに」
　 　

　それは囁きにも似た小さな声だったのだが。
　しっかり聞こえた宗像はため息を吐きたいのをなんとか堪えた。
　ついでにまたもや再燃しそうな凶暴な感情も無理やり抑え込む。


　――加減なんぞ出来るか。


　昨夜の、溺れるような行為を思い出すとそんな結論にしか至らない。
　最初は、さすがに無理はさせないつもりだったのだ。
　慎重に事を進めた記憶もある。
　しかし、やっと手に入れた腕の中の少女を、すぐに手放せたかと言うと決してそうではなく。
　段々と、しかし確実に激しさを増したことは確かに否定できない。
　潤んだ目で息も絶え絶えに見上げてくる朝来に、宗像が勝てるわけがないのだ。
　今も無意識に頬を染めてこちらを煽るこの可愛い生き物をどうしてやろうかと、恐ろしい思考を始めた宗像を朝来は知る由もない。
　 　

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　えぇっと、核心部分はやっぱりすっとばしました……（汗
　うぅ、私には荷が重かったです！

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