攻め気味な20のお題





「も、う……ゆるして」
「言っただろう? これはお仕置きだって」
「そ、んな」
「自業自得だ」




19. 「ついてこい。」





 ぴちゃん、という音を立てて耳元で水が跳ねた。
 覚えのある身体のだるさと眠気とで瞼がなかなか持ち上がらない。
 温かいお湯の中でゆらゆらと揺られる心地よさに身をゆだねていた朝来は、再び意識の底に沈もうとして、違和感に気づいた。
 ぱちりと眼を開く。
 その拍子に上体がびくりと震えたのに合わせるように頭上から呑気な声が降ってきた。
「お目覚めかい」
「…………」
「……おーーい」
 すぐには状況が把握できず、唖然としたまま固まる朝来の目の前で宗像が手の平をひらひらと動かす。
「な、な、な――」
 驚きすぎて言葉が上手く出てこない。
 それでも朝来の頭は高速で状況を把握していった。


 宗像の住むマンションにあるバスルームは広い。
 身長も体格も平均を遥かに上回るサイズの宗像が使用するのだから当然といえば当然であった。
 そして今、その広いバスタブには湯が張られ、平均を上回る体格の男と平均を下回りそうなほど華奢な少女が二人で浸かっている。
 もっとも、つい先ほどまでは男に背を預けた形でその腕の中に囲われていた少女に意識はなかったのだが。


「なんで――」
 二人して風呂に浸かっているのか。
 そんな朝来の混乱ぶりを面白そうに見つめながら宗像がさり気なく爆弾を落とす。
「二回目なんだし、そう慌てることもないだろうに」
「な!? 私は知らないわよ!」
「そうか? まああの時はずっと意識がなかったからな」
 あの時とはどの時だ、なんてさすがの朝来も聞き返したりしない。言われなくともいつのことかなど分かり切っていたからだ。
 初めての時。
 確かに途中から意識がなく、気づけば朝で真新しいシャツを着ていた。
 昨夜も途中から意識がないけれど、でも前の時よりも記憶が鮮明で――と、そこまで考えたとき。

「顔、真っ赤だぞ。――お仕置きが足りなかったか?」

 ぞくりとするような低い囁きが吐息と共に耳朶を打った。
「やっ」
 朝来はベッドの上で散々言われた『お仕置き』の台詞に思わず反応してしまい、羞恥で身体まで赤くする。
 反射的に自分の身体を抱きこむようにして背中を丸めた。
「くっ」
 不意に笑われた気配がして、ぎろりと睨みつけてやるが自分でも赤くなっていることは自覚しているのでいつものような威勢はない。
 それに、背を向けているとはいえ何も着ていない状態のまま宗像の腕の中で身動きできないというのは非常に落ちつかない。
 ところが、なんとか風呂から出ようとしてもウエストのあたりで後ろから腕を交差されていて立ち上がれない上に、下手に湯からあがろうとすると素っ裸のまま宗像の前を歩かなくてはならないことに気がついて八方ふさがりの状態だった。
 朝来が密かに唸っているのを見た宗像は、笑いをおさめて朝来の頭の上に手を乗せた。
 ぽんぽんと優しく叩きながら言う。
「あんまり煽ってくれるなよ。だいぶ無理させたから一応今は自制してるんだ」
「煽るっ!? そんなことしてないわよ!」
「だから、その表情がもうダメだと言ってる」
「言いがかりよ!」
「はいはい。じゃ、そろそろ出るか」
 わめく朝来を軽くいなして、宗像は実に自然に朝来を抱きかかえて湯からあがろうとする。
 慌てたのは朝来の方だった。
「ちょ、ちょっと待って! 抱えられなくても自分で立つわよ」
 さすがに裸のまま抱きかかえられるのは恥ずかしすぎて耐えられない。
 そんな朝来の乙女心だったのだが、宗像はニヤリと笑って朝来を見つめ返した。
「いや? 多分無理だと思うぞ」
 なぜか自信満々にそんなことを言う。
 朝来はからかわれていると思い、無視して立ちあがろうとして。
「えっ」
 脚にまったく力が入らないことに愕然とした。
「な? だからここは大人しく抱えられとけ」
 親切そうなのは言葉だけで、宗像の態度も表情もしてやったりといった風情だ。
 どう考えても確信犯なのだが、動けない朝来にはなす術もなく。
 抱えられ、身体を拭かれ、シャツを着せられるまで恥ずかしすぎて顔を上げられなかった。
 そんな朝来を見た目は平然と、内心は凶暴な感情をもてあまし気味の宗像がベッドまで運ぶ。
「まだ眠いだろ。今からでも寝とけ」
 顔を背けたままの朝来のこめかみへキスを落として布団の中へもぐらせる。
 しばらく悶絶しているようなうめき声がしていたが、やがて健やかな寝息に変わった。


 無防備な朝来の頬をなぞりながら、ベッドの端に座り込んだ宗像が小さく息を吐く。
(本当はまだまだこんなもんじゃない、なんてことを知ったら、コイツはどんな反応をするのかね)
 まだまだその行為に慣れない少女には今でも充分過ぎる求め方をしている自覚はある。
 それでも、まだ、と思ってしまう自分に苦笑する。
 自分の中の獣じみた欲望を、もし朝来が知ったらどうするか――。
 しばらくそんなことを考えて、宗像は不意に笑った。


 たとえ知ったとしても、見た目とはそれはもう裏腹な気の強い少女は驚きながらもきっと拒絶したりはしないだろう。
 ついてこい、などと言われたらむしろ怒りながら「あんたこそ遅れないでよ」とわめきそうな朝来を胸の中に収めながら呟く。
「今はまだ――な」
 ――これくらいで許してやる。
 

 不敵に笑う宗像を朝来は知らない。
 翌朝、良く考えればもしかして、意識がない間に身体中を隈なく洗われてしまったのかと思い至った朝来が独り真っ赤になってベッドに突っ伏してしまったとか。
 心配しなくてもその内慣れるだろう、とは内心の宗像氏の言である。






 二人でお風呂♪
 何気に、世話焼きな宗像氏。一応これでもイロイロとまだ自制しているらしい(笑
 もう、お前ら勝手にしろ。


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